「滝村大毅…」

長谷川は男のカードを前に出すと、

哲郎の目を見た。

「彼は、もともと…あなたの友人だった。それで、よろしいでしょうか?」







「はい」

長谷川の質問に一呼吸おいて、哲郎は答えた。

その口調には明らかに、怒気がこもっていた。

殺してもなお残る…怒り。


長谷川が、確認事項を続けようとするより速く、

哲郎は言葉を続けた。


「友人といいますか…ただの飲み友達でして…。茜が働く店から、少し離れたところの居酒屋で出会いました。ほら…私は、茜の店に入れて貰えなかったから」

と、

そこまで言って、哲郎はまた机を叩いた。


「あの店の店長ですよ!あのばばあが、私と茜の仲を引き裂く為に、私を出入り禁止にしたんですよ!そうだ!あのばばあにも、何か罰を与えないと!」

錯乱状態になり、突然震え出す哲郎は、

精神が安定していないようにも見えた。

薬物反応はなかった。

だからこそ、長谷川が呼ばれたのだろう。


長谷川はじっと、哲郎を見つめ、

事務的に言葉を放った。

但し、少し声を大きくして。


「別の店で知り合った滝村さんに、あなたはその店を紹介した。いや、行ってくれるように頼んだ。お金まで渡してますね」


最初の取り調べで、哲郎はそう答えていた。



少しポカンとすると、哲郎のテンションはいきなり下がった。


「はい…」

か細い声。

声自体が、少し震えていた。

「そうです…」


長谷川は、認める声の中に、後悔の念をとらえていた。


なぜならば、哲郎が大毅を店に行かさなければ、

2人は、付き合うことはなかったのだから。



「どうして、彼を行かしたのですか?」

その理由は、報告書に書かれていたが、

改めて確認の意味も込めて、長谷川はきいた。


「そ、それは…」

哲郎は、泣きそうな顔になっていた。


(ガキだ…)

真剣な表情をつくりながら、心の中で、

長谷川はため息をついていた。