「私は…茜と付き合っていたんですよ」

突然、哲郎は嗚咽した。

「ううう…それなのに…」


長谷川は、哲郎の様子を観察して、それが妄想でないとを悟った。

少し錯乱したのか…両手を虚空に這わす動きは、

明らかに、あの行為を思い出していた。




長谷川は少し息を吐くと、椅子に座り直した。

そして、改めてきいた。


「あなた方、お二人がそういう関係だとして…。果たして、それだけで付き合ってるとは言えますか?」


長谷川の質問は、哲郎の心を抉った。

虚空をさ迷っていた手が、机を叩き、

哲郎は立ち上がった。

「い、一度でも!そ、そういう関係になったら…そ、そうでしょうが!」

唾を飛ばして、むきになる哲郎を見つめ、

長谷川は心の中で、ため息をついた。


(真剣な相手には…そうだろうが…)



今までの会話で、長谷川は茜に対して、抱いていたイメージを変えた。


(したたかだな…)


そう…したたかな女。


(そして…)


ある意味純粋過ぎる男。


長谷川は哲郎を見つめた後、

男のカードに指を添えた。


もう1つ確認しなければならないことがあったからだ。