「君は、血液型を知ってるだろ?」

「はい」

男から、コップを受け取りながら、長谷川は頷いた。

「日本人は、血液型信仰のように、ただ糖の違いだけなのに、その者達の性格やすべてを決めつける!」

男はコップに口をつけると、

「だが、そんなもので…人は…血液型に惑わされて、B型はB型に、A型はA型に…暗示をかけられて、そのようになっていくのさ」

男は首を横に振り、

「その辺の血液型診断の本を読んでみろ!誰にも、当てはまるようなことしか書いていない」

コップの中身を一気に飲み干すと、

「人間は、そんな単純な部分はある!それを、分析して、診断することはできるだろうが…」

その後、男は虚空に睨むような形で、その場で動かなくなった。

「先生…」

長谷川が声をかけると、はっとしたように、男は動きだした。

「と、とにかくだ。君は、外にでるべきだ。人と話すこと…それは、紙切れより、価値がある」

男は、長谷川の目を見て、

「ここは、天国のようだからな。妬みや嫉妬はあるが…それ以上はない」



と言ってから、男はフッと笑った。視線を外し、

「いや…それくらいで、いいのだろう。それ以上を経験する必要はない」



長谷川は、空になったコップに目線を落とす男に何も言えなくなった。

男の言葉は理解できた。

だが、そんなことを口にする男の真意がわからなかった。

心の奥底にあるもの。

長谷川はその存在に気付いていたが、

それが何かを理解するだけの経験がなかった。