紫雨side



「俺は失礼する」



「えっ··そんな、シウさまぁ〜」



気持ちわりぃ



さっきからベタベタ触りやがって



そこそこ良いトコの人間じゃなきゃ消してたトコだ



「あのっ!シウ様!私、ご奉仕しますよぉ?」



「チッ」



うぜぇ



その熱を帯びた目も、わざとらしくはだけさせた服も、甘ったるい声も




「すみません、蓮見-ハスミ-様。若はお忙しいので。これで失礼致します」



珠生-シュウ-がそう言い、俺たちは帰る




女は、もう視界にも入れない



チッ

服が香水くせぇ



あの女が引っ付いてきたからか



「···くせぇ」



「ブッ···さーせん」



吹き出しやがって



思ったことを口に出したのが面白いか?



「若、どうぞ」



俺より確実に年上のイカツイ顔のジジィが車のドアを開ける



「······目立つ。歩くぞ。車はお前が運転して帰ってこい」



こんな街中で車、しかも漆黒のベンツなんか乗ったら女共が追っかけてくんだろ



はぁ····



早く帰りてぇ



「珠生、捨てておけ」



俺は昨日新調したばかりのスーツを渡した



あんなモン着れたもんじゃねぇ



いつも通り平凡で色の無い街



どいつもこいつも汚ぇ目だ



俺が言えたこっちゃないけどな



···ふと、路地裏が目に入った



はぁ、また女が襲われたか?



女に男がたかって恥ずかしくな····ッ!!



彼女は····!



「若!」




いきなり走り出した俺を見て、珠生から声を上げる



「おいテメェ···ふざけんなよ?」




「あ"あ?·····ヒッ」



短い悲鳴をあげた一人の男は、俺に気づいていない二人の男の服を震える手で引っ張った



「なんだよ····ッ!!」
「何すんだ·····ッ!!」



「お、お前····鬼月 紫雨-キズキ シウ-か?」




俺に気づいたらしき男が、目を見開き俺を見た



「チッ····先にその手離せ」



俺は未だに方を掴んだままの男を睨んだ



「ヒッ···は、はいっ!」



さっさとしろよ




ズルッ




「ッ!!」




彼女の体が傾いた瞬間、俺の体はその場から離れていた




地面に着くギリギリで受け止めた彼女の体は······驚く程、軽かった



「珠生、あとは任せる」




「その子が?」



「ああ。」




何の話をしてるのか




そう思う奴も少なく無いだろう




でも、俺は歓喜に満ち溢れていた





俺の腕の中に、彼女がいる




その事実だけで、十分だった





「愛してる。絶対に、逃がさない」




そう呟いた俺の声は、夜空に吸い込まれ消えていった