「かっこいいのがすきだなんて、言った覚えないけど」
橘がシャープペンシルを落とした。転がってわたしの机にまで届いたから、そっと返してやる。
「ほんと?」
「ほんと」
「素のおれでも、すきになってくれるの」
「いままで素じゃなかったの?」
一瞬間をおいてから、白状するように。
「──かっこつけは、したがってた」
しおらしい。
「まあ、すきになるかはわからないですけどね」
嘘、というか、隠しごとというか。
「……頑張る」
橘を見つめ続けることは、わたし自身が耐えられなくて。
黒板を見つめる。
頑張ろう。
もういちど、橘のつぶやきが聞こえた。



