そろそろきみは、蹴られてくれ。



わたしにできるせいいっぱいは、首を横に振ること。いやじゃない。声に出すこと。それだけだった。


「いやじゃない。……いやじゃないの、橘」


一瞬、緩んだ腕の力。


そこからするり、抜け出して。彼のほうを向いた。


縋るようにゆっくりと、伸びてくる右手。


きっと彼だったら、わたしが離れる前に抱き寄せることだって、できてしまったはずだ。


それでもしなかったのは、わたしが壊れることを、不思議なくらいに恐れているようにも思えた。


「だって紗奈ちゃん、篠山のことがすきなんじゃないの」


きつく目を閉じてから、ようやっと。目を開けた。


少し暗い教室。寄せられ、中央の上がり具合が左右で異なった眉。細められた、濡れた瞳。震えながらも、きゅっと結ばれたくちびる。