「紗奈ちゃんは」 ほんとうは、両耳を塞いでしまいたかった。 ──けれど。彼の手が、わたしを掴んで離さないから。 ほんとうは、わたしの声、言葉で、邪魔をしてしまいたかった。 ──けれど。 「おれから想われて、いやだった?」 彼の声が、はじめて聞くもので。 彼の声が、熱と憂いを孕んでいて。 彼の声が、吐息混じりに震えていて。 そのすべてを、耳元で知ってしまって。 首を倒してわたしを抱きしめる、橘を。 逸らすことなんて、できない。