「紗奈ちゃん」
「っ、はい!」
うわあ、めちゃくちゃにいい返事をしてしまった。
どうやら、先に言葉を発した方が負け、というわけではなかったらしい。
……よくよく考えれば、そりゃそうだよね。
わたしが一方的に会話を打ち切って、逃げた。それだけだったんだし。
もう逃げない、って決めたでしょ、紗奈。
ちゃんと目を見て、キスの話だったら、しないって言って。その話じゃなかったら、体育倉庫からシャベルを持ってきて、穴掘って、埋まる。よし、プラン完璧。
「また今度、ふたりきりのときにさ」
「う、うん」
ただのあいづちですら、ものすごい緊張だ。くやしい。わたしばっかりがてんやわんやみたい。橘はなれているみたい。
ほんとうは、橘だって、なれていないくせに。わたしが毎回毎回たいへんだから、隠しているんでしょ。
強がりだとか、格好つけだとか、あるかもしれないけれど……それだけじゃなくて。
……わたしのためもあるんだろうな、と、最近思うようになったんだ。



