そろそろきみは、蹴られてくれ。






そのあとの授業では、予想に反して、やつが大人しかった。


ご褒美なんて言っていたくらいだから、何かしてくると思ったのに。


──わたしがしてほしくてしかたなかった、みたいだな。そんなことはない。


帰り支度をしていると、わたしよりも先に終えたらしい橘が、立ち上がった。


ガタリ。その音に、思わず肩が跳ねる。


そっか、バスケ部。早く行かないとだもんね。


わたしはいままで、橘の行動のどれほどを見ていなかったのだろう。いや。見ていたうえで、どれだけが心に留まっていたのだろう。


橘のこと、断片的にしか知らない。


みんなが話していた、部活中の彼。


わたしが直接、知ったのは──わたしの隣にいるときの彼、それだけ。