「もう少しお静かにしてください!」

私はカーテンを開けました。そして、目の前にあった光景に言葉を失います。

部屋には誰もいませんでした。ただ、窓が空いているのかカーテンが風に揺れているだけで人は誰もいません。

「結城さん、その病室には誰もいないよ」

師長さんに声をかけられ、私は「すみません」と謝り病室のドアを閉めます。この時はまだ緊張で幻聴が聞こえてしまったのだと思っていました。



その後、先輩の看護補助員さんに色々教えてもらいながらなんとか一日を過ごしました。しかしあの病棟にいる間、ずっと誰かの視線を感じて落ち着くことができませんでした。

「ただいま〜!」

「おかえりなさい。もうご飯できてるよ」

仕事から帰って夕食の準備を終えた頃、夫が帰ってきました。息子の優(ゆう)が「お父さん、おかえり!」と言い、今日学校であったことなどを話します。

「そうだ!いつでも沸かせるようにお風呂の準備だけしておこう」