女は男達の舌を切り取って次々に殺してしまった。最後の一人となった男は持っていた山刀で女を切りつけ、逃げたが、五十年後に道に迷い難儀していた若い女にうっかり話してしまう。
 翌朝、男は変わり果てた姿で見つかった。もちろん、舌を抜かれて。

「それが呉野ちゃんが訊いた話ィ?」

 拍子抜け、といったように要は口を尖らせる。

「まあ、怖いっちゃ怖いけど、よくある昔話よね」
「だな」

 互いに頷き合ったあかねと秋葉に向って、呉野は目を見開いて首を振る。

「それだけなら、僕だって怖いですけど、一安心ですよ。ただの昔話ですもん」
「何かあるの?」

 ウキウキとした声音で要が急かすと、呉野は言いづらそうに口を結ぶ。

「……それが、十年くらい前にあったらしいです。似たような、事件」
「え!? マジで!?」
「その人、僕の隣のベットにいた――」
「ああ、大島さん?」
「……なんで知ってるんですか?」

青ざめた呉野に、要は平然と返す。

「だってネームプレート見たもん」
「目敏すぎます」

 ぼそっと呟いて、本当に吉原は怖いです、と、心の中で震えてから、呉野は気持ちを切り替えた。

「で、その大島さんが言うには、大島さんの知り合いの田舎で起きた事件らしいんですけど、しばらく行方不明になっていた男性が、ある廃墟で死体で見つかったらしいんです。自殺と断定されたらしいんですが、舌がなかったそうなんです」
「うわぁ……」

 あからさまに引いた声を出したのはあかねだ。その横で、秋葉が若干引き攣った頬を持ち上げているが、要はキラキラとした瞳で言い放った。

「耶麻口村の怪事件ね!」
「な、なんで村の名前まで知ってるんですか!?」
「情報サイトで載ってたんだよ~! いやぁ、しかし、実際にその村に住んでた人がいるなんて~!」

 感動いっぱいというように両腕を広げた要の頭を、不謹慎よと、あかねは軽く叩いた。

「それで、今度交霊会をやるそうなんですよ」
「こう・れい・かい?」

 更に要の瞳が輝いた。慌てて秋葉とあかねが止めに入ろうとしたが、呉野は気づかずにペラペラと続けてしまった。