「ちょっと、吉原さん。そんな冗談笑えないよ」
「冗談じゃないですもん」

 要はそう言うと椅子を引いて座った。髪を耳にかけようとして、はたと手を止めた。要の左耳には髪に隠されるようにしてイヤホンが装着していたからだ。要はそのまま、手をテーブルに置いた。

「では、順を追って説明しますね。まず初めに、あなたと大島さんは共謀し、ここに来る途中みんなを睡眠薬で眠らせた。それは何故か」

 ぴっと、要は人差し指を立てる。

「道を隠すためです。先程笹崎さんが、簡単に緑色のネットを外せたみたいな言い方しましたが、相当数の木々の枝や草が貼り付けられていて、結構な重量がありました。ねえ、笹崎さん?」

「そうね。けっこう重かった。私達三人と、向こう側から警察の人が二人で引いてくれたけど、私が持ったところは大容量の猫の砂くらいあったわ。十六リットルくらい」

「個性的な比較をありがとう。だからね、大島さん一人であれを運ぶのは結構な重労働なのよ。もう一人いなきゃやってらんないくらいね」

「いや、そんな理由……。それに、協力者っていうのなら、僕じゃなくて猪口さんでしょう?」
「そうだぞ、お嬢さん。田中さんの言うとおりだと思うが」

 要は、田中の肩を持ったジャブダルに指を向けた。

「ジャブダルさんはご存知なくて当然ですが、猪口さんはあの時、睡眠薬を盛られてぐうすか寝ていらしたんですよ。そんな人がお手伝い出来ます?」
「寝たふりかも知れないじゃないか!」
「あなたみたいに?」

 返されて田中は押し黙る。

「は~い、由希しょうげ~ん!」

 パンッとテーブルを叩いて歌うように言った要の肩に手を置いて、由希は田中を見据える。

「あのとき、大島さんから渡された飲み物は、ミルクティでした」
「そう! うちらのときもミルクティだった!」
「それがなんだね?」

 ジャブダルは眉を顰める。その隣で、あっと上河内が声を上げた。

「田中さんって確か、乳製品アレルギーでしたよね?」
「そう。田中さんは乳製品アレルギー。だから、一人だけ昼食にカレーだった。そんな人がミルクティを、飲・み・ま・す・か?」

 要はリズム良く手を叩く。

「いや、僕のはミルクティじゃなかったですよ」

 焦った様子の田中に、要は冷たく突きつけた。

「証拠もありますよ」