要達がペンションへ戻ると、もう皆戻って来ていた。食事用のテーブルに集まっていた面々が要達に気づいて振り返る。座っていた上河内が嬉しそうに立ち上がった。

「あなた達、無事だったのね。心配したわ」
「すみません」

 ぺこりと頭を下げた要を押しのけるように、笹崎が上河内に駆け寄った。

「上河内さん! ジャブダル先生! 救助が着ましたよ!」
「えっ!? 本当!?」
「本当か!」

 わっと、盛り上がる三人を余所に、田中が戸惑った声音を出した。

「どうして?」
「どうしてぇ?」

 要は片方の眉を釣り上げて、繰り返した。田中はハッとして、

「いや、道が無かったのに、どうしてだろうって」
「道はありましたよ」
「え?」

 驚いたのは上河内だった。

「それがね、上河内さん、ジャブダル先生、道が見つかったんですよ! どこにあったと思います?」

 嬉しそうに笹崎が訊く。ちょっと邪魔だなぁと、笹崎を軽く睨んだ要に気づいて、由希が苦笑を漏らした。少し大きめのショルダーバックのベルトを掴む。このバックは先程まで持っていなかった物だったが、誰もそれには気づかなかった。笹崎が興奮しながら、驚くことを言ったからだ。

「隠されてたんですよ! 茂みとか、積み上げられた木々とか、低い木とかあったじゃないですか? あれ実は緑色のネットに殆どがくっつけられてて、取り外すと道があったんですよ!」
「手前のものは違いましたけどね。触ったり、取ったりされても大丈夫なように手前の物だけ別にしておいたんでしょう。道がちょうど大きくカーブしているところだったので、塞いでしまうとその先の林や横の森と同化してしまって、道が消えてしまったみたいになってたんです」

 要が補足すると、上河内が声を上げた。

「じゃあ、帰れるのね!」
「そうなんです! 帰れるんです!」
「やったな!」
「でも、帰るのはあたしの推理を聞いてからにしてくれます?」

 喜び勇む三人に要は冷静に言って、軽口を叩いた。

「まあ、あなた達は関係ないから帰ってもらっても構わないんですけどね」
「関係ない? ……推理ってなんだね?」

 怪訝に顰めたジャブダルをまったく見ずに、要はある人物だけを直視していた。

「犯人、解ったんで。その推理です」

 ぞわっと、見据えられていた者の全身が粟立つ。

「犯人? 沢松さん達を襲ったやつか?」
「まあ、そうですねぇ。でも、それだけじゃないんですよ、ジャブダルさん。大島、猪口の殺害を罪状に加えてください」
「は? 猪口だと? あの女は逃げたんだろう?」

「いいえ。あっ、ちなみに秋葉とあかねは今現在警察によって捜索されています。五時間くらい前に現在の位置情報を伝えるURLが仲間のところに送られたらしいので、動いてなければもう間もなく救助されるでしょう」
「そう、無事なんですね」

 ほっとした様子の上河内に笹崎が説明を始めた。

「実は道を発見したときに、吉原さん達の学校の先輩だとかいう、小さい女の子が警察を連れて来てくれたんですよ。そこまで人数は多くなかったけど、もうマジでほっとしてぇ!」

 泣き出しそうな笹崎に、要は注意を促した。

「笹崎さん、ちょっと黙っててもらって良いっすか? 推理進まないんで」
「チッ……分かったわよ」

 軽く舌打ちをして、笹崎は渋々返事を返す。

「じゃあ、犯人さんから発表しちゃいましょうかね。大島さんを計画的に殺害し、猪口さんを行方不明に見せかけ殺し、あかねと秋葉を襲った犯人は――田中さん。あなたです」

 飄々と告げられた田中は、硬い表情で笑った。