そうだ。猪口も寝ていた。そう思い出したとき、要の頭にあることが浮かんだ。

「それは、珍しすぎるね」

 そう言った由希をスルーして、要は由希に尋ねる。

「ねえ、大島さんから飲み物渡されなかった?」
「うん、頂いたよ。タピオカミルクティ」
「……ミルクティだった?」
「うん。美味しかったけど、それがどうかしたの?」
「ああ。そういうこと」

 要はふと、呟いた。ポケットから、ぐしゃぐしゃになったレシートを取り出す。そこには、店名と、商品名、数、値段、日付、時刻が記載されている。

「あたし達、どうやら一服盛られたみたい」
「え?」
「睡眠薬だよ。大島さんと、もう一人に睡眠薬を盛られたんだよ」
「ええ? どうしてそんなこと?」
「それは――」

 言いかけて、要は突然折れ重なった木々をどかし始めた。

「どうしたの? 要ちゃん!」

 驚く由希に、要は振り返る。

「ここに、あるんだよ」
「何が?」

 戸惑って首を傾げた瞬間、微かに藪の中から何かが聞こえてきた。それは段々大きくなり、子供のような泣き声だと分かった。

「この声って……」

 由希はハッとした。撥ねるように要を見ると、先程の要と同じように枝を退かし始めた。それを見て、要も止めていた手を動かす。そこに、

「あ~! いたいた! あんた達、四時間もどこ行ってたのよ!」

 笹崎が文句をタレながら歩いてきた。

「私達、展望台の捜索終わったからこっち来たら、あんた達いないからさぁ、この辺もう探したわよ? 田中さん達と合流して、今森の中探してたんだけど、いったん引き上げようって話になって、でもあんた達のこと気になるって上河内さんが言うから、私だけ戻ってきたんだけど――って、何してんの?」

 笹崎の話を無視し(由希は手を動かしつつも、話を聞いていたが)折れた木々や、低木をどけようとしている要達に不審な目を向けた笹崎の耳にも、泣き声が届いた。

「えっ!? 何!? やめてよ!」

 パニックになりそうな笹崎の肩を掴んで、要は軽い口調で言った。

「ちょーど良いところに来たね。笹崎さん。笹崎さんも手伝ってよ」
「は!?」
「それと、ひとつ訊いておきたいことがあるんだよねぇ」
「えっ、は? 何? ってか、怖くないの、この泣き声! 近づいてきてるみたいじゃないっ!」