きっともう恋じゃない。



まおちゃんの頬にすり寄るように、首に巻いていた腕を肩に回して抱き寄せる。

わたしを潰さないように変な体勢をとっていることはなんとなくわかったけど、容赦なく引っ張り寄せると、吐息が耳のすぐそばをくすぐった。


「なあ、和華」


返事はせずに、いつもより、というかはじめてこんなに大胆になった自分に驚きながら、今更照れないように頬を触れさせ合う。

息をのむ音が聞こえたのが嬉しかった。


「いつもこんくらい素直ならいいんだけどなあ」


態度なら素直になれるのに、言葉は天邪鬼にすらなれない。

伝えることってきっととても大切だ。

慎重は行き過ぎると緊張に変わる。

口は貝になって、指先は文字を打てなくなる。


まおちゃんの冷たいくちびるが頬を滑る。

触れるのではなくて、通過していくだけ。

それだけでも背中の産毛が粟立つ。


「ま、おちゃん」


息がくちびるにかかる。

薄闇に慣れた目にまおちゃんの顔が映る。


仄かな熱が灯った瞳から逃れられないのがこわくて、同時に、わたしの瞳にも宿っているであろう熱を知られたくなくてぎゅっと目を瞑ったとき。


パチン、と遠くから音が聞こえたと同時に眩い光が部屋を満たした。