きっともう恋じゃない。



「眞央は……悪くない、から」

「だろうな。でもそれは泣かせていい理由にはならない」


ふん、と鼻を鳴らす薫は心底面倒だと言いたげな顔をしていた。

腫れて熱を持つ目元をぐしぐしと拭いながら、こんなときは大抵、と思い当たることを口にする。


「なんか知ってるでしょ」

「はあ?」

「眞央のこと。なにかきいてない?」


恋人になった期間はまだ一ヶ月と少しだけど、幼馴染みとしては生まれたときからの付き合い。

まおちゃんがちょっと怒ったくらいで勢い任せにあんなことを言わないことはわかってる。


「おまえらは、自分の口で物が言えないわけ」

「それは、うん。耳が痛い」

「姉ちゃんが吹っ切れたと思ったら今度は眞央で、俺も迷惑してんの。いっぺんちゃんと話せ」


やっぱり、まおちゃんが何かを抱えていることには違いない。

心当たりはいくつもあって、手探りで見つけようとするからすれ違っていく。

隠し事はまおちゃんの方が上手だ。

でもそれはわたしと比べて、という話であって、完璧に隠しきれてはいない。


「姉ちゃんが眞央を好きなことも、眞央が姉ちゃんを好きなことも、俺はちゃんとわかってるよ」


落ち着いた声だった。

薫はいつの間に、こんな声を発するようになっていたのだろう。

黙っていると、薫はわたしに振り向いた。


「でもたぶん、あいつがうだうだ悩んでいることから救ってやれるのは、そういうセリフじゃないよ」


薫は肝心なところは教えてくれない。

悩んでいることがわたしに関係するのは間違いないはずなのに『好き』って言葉に振り向いてくれないまおちゃんに何を言えるのかわからない。


まおちゃんはわたしの手なんて借りなくても、どんどん先に行ってしまえる人だから。

わたしにしか言えないこと、まおちゃんに届く言葉。

どんなに探しても、見つからない。