きっともう恋じゃない。



「おっ。すごいな。満点がある」

「でしょでしょ。しかも数学」

「さっすが和華!」


おだて上手、褒め上手。

お父さんが本当に嬉しそうに笑うから、元は自分のためとはいえ頑張って良かった。


自宅に向かって走り始めた車内で、お洒落な洋楽にのせるみたいにさりげなく、進路のことを話した。

赤信号につかまるまで黙っていたお父さんの横顔を見遣ると、細めた瞳の目頭を押さえていた。


「はやくない……?」

「泣いてない」

「まだ何も言ってないよ」


漏れる笑みを堪えられずにいると、なぜか車の向かう先が変わる。

家への道から逸れてどこへ向かうのかわからずにいると、お父さんが声を高らかに言う。


「うなぎ食べに行こう」

「かおるみたいなこと言わないで?」

「嫌か?」

「嫌じゃない」


お父さんと二人きりでの食事は久しぶりで、お母さんと薫には内緒なと悪戯っぽく笑う。

ちょっとお高いお重を食べていると、まるでもう受験に受かったようなお父さんの喜びようが今更気にかかる。

何か勘違いされてはいないかと恐る恐る、まだわたしが決めたってだけの話だと一応伝えておく。


「でももう決まったようなものなんだよな」

「いや、まだ全然わかんない」

「三者面談、一緒に行こうかな」

「やめてよ、恥ずかしい」


お父さんだからこんなテンションなわけではなくて、きっとお母さんに報告したとしても同じような反応をするのだろう。

散々心配をかけてきた。

腫れきった傷に触れることなく、わたしの力を信じてくれていた家族だから。

ちゃんと何かを決めて、ちゃんとしようって思えることは、人のためにもなることを知って、これまで何気なくこなしてきたことが実を結ぶ予感がした。