きっともう恋じゃない。



スクーリング最終日。

今日はお母さんに朝から用事があるところを送ってもらったから、早く着き過ぎだなんて言えずに一昨日と同じ時間に着いてしまった。

今日も新見くんと矢澤くんが早く来ているとは限らないけど、それでも鉢合わせるよりはマシだと思って退屈しのぎに掲示板の前に立っていると、おはようと声をかけられた。


「あ、おはよう。三宅さん早いね」

「そう?」


黒い革製のカバンを持った三宅さんは壁にかかる時計を見て、本当だ、とちょっと驚いた様に言った。

服装は昨日や一昨日と似たような系統だけど、カバンは男物っぽいし化粧も今日は薄付きな気がする。

もしかして、と思いついたことをそっと耳打ちしてみると、三宅さんはあっさりと頷いた。


「よくわかったね。彼氏ん家からそのまま来たんだけど」

「彼氏の家にお泊まりするんだ……」


向かう先が学校だっただけで、いわゆる朝帰りをしてきたということでいいのかな。

大人っぽいのは姿格好だけではなかったんだと思うと、なぜかわたしがむず痒いような気持ちになってくる。


「久野さんは彼氏いないの?」

「います……」

「なんで敬語?」


照れてるの? と顔を覗き込まれたら赤面するしかない。

三宅さんは初めて面食らったような表情になって、それからふわりと微笑んだ。


「愛いねえ」


見惚れたのも束の間、からかうような悪戯っぽい笑みに変わる。

一昨日には話すこともなかったのに、きっとただの隣席の人同士だったら見られなかったような顔を見せてくれたのが嬉しくて、火照る頬が緩んでいった。