きっともう恋じゃない。



「じゃあ、焼肉」

「それもお父さん抜きじゃ可哀想でしょう」

「夜も焼肉にすればお父さんも食えるじゃん」

「昼も夜も焼肉にするわけないじゃない。和華は? 決まった?」


焼肉でもなんでもいいよと思っていたところにふたたび話を振られて、薫には悪いけど、と心のなかで先に謝っておく。


「家で食べたい」

「はあ? いやだ、絶対いやだ!」

「お父さんが早く帰ってきたら夜は焼肉でいいから」

「そんなん、姉ちゃんが外食したくないだけじゃん」


さすが弟というか、家族というか。

外食に気が向かないことを読まれてる。


ぶつくさ言いながらも一先ず納得してくれた薫には、帰りがけに寄ったスーパーで千円札を渡しておいた。

そしたらお釣りを一桁まで計算してお菓子を買い込んでいて、とりあえず機嫌は直ったようだった。


家に帰ってご飯を済ませたあと、薫がお菓子を抱えて部屋にやってきた。

ラグの上に寝転がって教科書を開きながら、わたしの携帯でまた別のゲームを進めている。


この際、行儀が悪いことには目を瞑ろう。

ついでに、ボロボロとラグの上に欠片を落としていることに関しても。


「珍しいね、かおるが真面目に勉強してるのって」

「んー、テストの点良かったらと、あと受験終わったら前倒しで携帯買ってくれるって。お父さんが」

「前倒しって……受験は三月なのに?」

「三月と四月じゃ大違いなんだよ」


薫の言うことはあんまり理解できないけど、お父さんに頼み込んだのかな。

たったの一ヶ月差でそこまで必死になれるのも面白い。