きっともう恋じゃない。



「おかえり、和華」


お母さんは今更わたしの携帯を薫が持っていても何も言わない。

外はめちゃくちゃに暑いのにエアコンの効いた車内では気にならないのか、薫はホットスナックをお母さんに頼んでいたみたいで、冷ますことなくピザマンにかぶりつく。

あっという間に平らげてしまうと次はフランクフルトとアメリカンドックの二刀流。

器用に小指でゲームの操作も怠らず、悠々とくつろぐ様子を羨ましいを通り越して恨めしく眺めていると、お母さんがチョコ味のアイスをくれた。


後部座席に腰を沈めてしゃくりしゃくりとアイスを噛み締めていると、同じ種類のバニラ味を食べていたお母さんが後ろを振り向く。


「このあとどうする? 家でご飯食べる?」

「うなぎが食いたい」


いつも送迎はお母さんとふたりきりのことが多いから、その癖でわたしに訊ねたはずなのに、返事をしたのは薫だった。


「うなぎはお父さんがいるときじゃないとダメよ」

「いいじゃん。テスト頑張るし。姉ちゃんが」


わたしかい、ってツッコミは飲み込んで、この後のことを考える。

レポートは急がないし、うなぎはともかく薫が真っ直ぐ帰りたそうじゃないから。

午前授業のときは午後三時まで外出禁止じゃないって前に言ったことがあって、そんなの守ってるやつなんていないと馬鹿にされたけど、実際どうなのかは知らない。