きっともう恋じゃない。



「かおる? 学校は?」

「二限で終わった」

「そんなことある?」


期末試験にはまだ早いし、こんな半端な日程で午前授業なんてあったかな。

助手席の後ろに乗り込むと後ろ手を差し出される。

なにかがのっているわけでもない手が何を求めているのかはすぐにわかった。


誰からもメッセージが入っていないことを確認して携帯を渡す。

薫には勝手にまおちゃん宛てのメッセージを送った前科があるから、メッセージアプリにはロックをかけてある。

お母さんとお父さんへの連絡はショートメールを使うあたり、わたしよりよっぽど携帯慣れしてる。

当たり前のように受け取って薫が開いたのは充電の減りが凄まじいシュミレーションゲームで、つい後ろから口を出す。


「バテモンでいいじゃん。それやるの?」

「あんなのやることねえもん。オートプレイで勝手にランク上がるし」

「バテモンはいらないってこと?」

「いや、500日報酬はほしい。あと次のアップデートで新要素入るから、それ次第だな」


わたしの携帯で、わたしにログインは任せきりで、どうしてそこまでふんぞり返った態度でいられるのかは、もう苛立ちを通り越して疑問でしかなかった。

薫は根が優しい子だって知っているから、そんな態度も甘んじて受け入れてきたけど、こちらを一切顧みない根性に腹が立つことだってある。


背後から手を伸ばして携帯を取り上げるか迷っていると、運転席のドアが開いた。

コンビニの袋を持って戻ってきたお母さんの前で、伸ばしかけた手をぴたりと止める。