きっともう恋じゃない。



うるさいな、と軽く流して新見くんはわたしの顔を覗き込もうとしてきた。

目が合っていると言葉が出てこなくなりそうで、そっと逸らすと身を引いてくれる。


「きっかけもなく解けるわけじゃないし、だから今日は久野ちゃんとちょっとでも話せただけでラッキーだよ」


新見くんは笑っているはずなのに、真っ直ぐに見つめられないせいで、声音だけを聞いていると少し怖かった。

弾むような、嬉しさが滲むような声なのに、外側から壁を引っ掻かれているような気分になる。

それはたとえば、壁を蹴破って心に侵入されるよりも、少しだけ重く恐ろしい。


また明日、と言ってふたりが出て行ったあと、教室にはわたしひとりだけになった。

明日は今日と同じ席に座るようにとアナウンスがあったから、新見くんとはまた話すことになるだろう。

悪い人でないことはわかっているのに、急激に距離を縮められる感覚が久しぶり過ぎたせいか、ドッと疲れが押し寄せて明日が憂鬱になる。


とりあえず、明日は今日みたいに早めに来ずに時間ギリギリに入るようにしよう。

席が決まっている以上、これ以上気後れしたって仕方がない。


スケジュールにディスカッションが含まれていたことを思い出してさらに気を重くしながら、お母さんの待つ車へ向かう。

近所のコンビニに待っていた車に乗り込もうとしたとき、助手席に腕を組んで座る先客がいた。