きっともう恋じゃない。



「ふたりは友だちなの?」


案外話しやすいかもしれないとこちらから話題を振ってみる。

わずかに震えた声は大して気にせず、新見くんが答えてくれた。


「幼馴染み!」

「ちがう。顔見知り」


すかさず矢澤くんからの訂正が入る。

ふたりの間で認識がちがうというのは、幼馴染みや兄弟がいると結構理解できるものだった。


「同じマンションってだけ。他人。今日一緒になったのもたまたま」

「他人ってひどくねえか。同じマンションの、しかも同じ階なんだからさあ!」

「六室の端と端に住んでてまともに話したことがないやつを幼馴染みとは言わないんだよ」


まおちゃんとわたし、というよりはかおるとわたしのやりとりに近い掛け合いについ笑みが溢れる。


「かわいー……」

「え?」


新見くんがぽそっと呟いた声を拾い切れずに聞き返すけど、大袈裟なほど首を横に振って拒否された。


そのあと続々と人が集まってきて、9時には授業が始まる。

隣の席には髪を染めて脚も肩も露出した派手目の子が座ったけど、とくに話すこともなく淡々とノートを取っているとあっという間に時間が過ぎる。

新見くんがうつらうつらと頭を揺らすたびに気になっていたら、途中から矢澤くんが起こしてくれるようになった。

ぺしんと後頭部を叩く、ちょっと目立つ方法だったけど。