「呼んでよ、和華」

「ま、まおちゃん」

「わーか、ちがうよな?」


耳元に吹き込まれる声と圧に身震いする。

呼んでと言われて呼べるわけがない。

まおちゃんはずっとわたしのことを『和華』と名前で呼んでいるから慣れたものというか、それ以外にないのだろうけど、わたしはちがう。

もうずっと、物心つくより前からまおちゃんと呼んでいるし、人前の呼びにくい場面では名前を呼ばない方法でやり過ごしてきた。


心の準備というか、練習が必要なのだと必死に説得しようとしたのが却ってまおちゃんを焚き付けてしまったようで、嬉々として顔を覗き込まれる。


「ま?」

「ま……」

「お?」

「お……ちゃん」

「おい、コラ」


両手で頬を挟まれて、つい声を上げて笑う。

いちゃいちゃしてるみたいで、楽しい。面白くて仕方がない。

つられて笑うまおちゃんが今日はもう諦めた、みたいな雰囲気になり始めたタイミングで、心の中でしたたかにほくそ笑む。

すぅ、と小さく吸い込んだ息を大きく吐き出して、まおちゃんの両頬を包む。


恥ずかしがったらまおちゃんの思うツボ。

だから、目は逸らさないで、ちゃんと聞こえる声の大きさで。


「大好きだよ、眞央」


まおちゃんのこんなに真っ赤な顔、はじめて見た。