有 料 彼 氏



「あたしたちのこの関係は、ぜったい誰にも言わないで」


万札を手に握らせると「仰せのままに」そう聞こえて、てのひらで視界を覆われた。


お金だけじゃなくて、命まで盗られるの?


思いながらも、恐怖心はそんなでもなかった。大丈夫だと感じていたのだろう。


「……」


てのひらが離れる。目を開けると、太陽がまぶしかった。


「学校行こっか」


さっきまでの彼は、やはり彼ではなかったと思われる。まったく記憶がなさそうな。


声だって、パキパキとした動きだって、元通り。


わからないのは、1万円の行く先だけ。


まあそれは、まじないのせいなんだ。たぶん。


……あたしは、彼の名前すら知らない。


女子の騒ぎの対象が彼、それだけだ。あたしが知っているのは。


それでもいいかなと思う。


どうせ、一時のまじないなんだから。のろいなんだから。