有 料 彼 氏



鳥の鳴き声がして目を覚ました。


昨日、帰ってきてすぐに用意していた今日の持ち物を手にして、母親が用意してくれていたお弁当を掴んで、学校へと向かう。


母親も父親ももう仕事に出ていて、誰に何を言うことなく玄関の鍵を閉めた。


「っ!」


曲がり角で誰かとぶつかり、よろける。……と。


「すみません!」


ぶつかった相手だろうか、手を引かれた。


こんなにベタなことある?思いながら、低い声の主、男を見上げる。


「あ……?」


目が、合った。


あれ。


あれ、そうだ、目が合ったらダメなんだっけ。


夜中の記憶が蘇ってくる。


なんであたし、ベッドで寝てたの?


なんで儀式につかったものたちが、なくなっていたの?


本は?どこにいったの。


「おれと、付き合ってください」


すべてが掻き消される。


このひと、あたしたちの学年で大人気のひとだ。もっとかもしれない、確かファンクラブまであった気がする。


近くで見たのは初めてだったけれど、確かに、ひとを圧倒する魅力があった。


そして。


付き合ってください、の、言葉。


彼の腕を引き、路地裏へと連れる。