夏色の初恋を君にあげる(野いちごジュニア文庫版)



ただただその場から離れたくて、あてもないまま重い足を動かす。



現実を、悪意を、受け止めきれない。



うつむき、力が満足に入らない足でよろよろと歩いていた、その時。

突然どんっと正面からなにかに突っ込むような形でぶつかった。



「――凛子さん?」



すぐ頭上から声が聞こえてきて顔を上げれば、由良くんがそこにいて。



「由良、くん」



はっと我にかえり、彼の薄いけれど男子らしい胸の中から離れようとした時、逃がさないとでも言うように、がしっと肩を掴まれた。



「どうしたんですか?」



「な、んでも……」



ごまかそうとしたのに、私の肩を掴む由良くんの手に添えた手が、震えていた。

そのことに気づいたのは、多分同時だった。



「来て」



短くそれだけ言うと、有無を言わさず由良くんが私の腕を掴んで歩きだした。



私は声を発する気力も残っていなくて、腕を引かれるまま彼の背中を追った。