クールな君と甘いキャンディ(野いちごジュニア文庫版)

 その翌日のこと。


 朝の休み時間、一人で自分の席に座ってスマホをいじっていたら、うしろからトントンと肩を叩かれ、有村くんに声をかけられた。


そしてそのままなぜか廊下まで連れ出される。


 何かと思いドキドキしていたら、彼はその場ですぐに昨日貸した折り畳み傘を返してくれた。


「これ、昨日の。ありがとな。助かった」


 わざわざ廊下まで呼び出されるとは思わなかったからびっくりしたけれど、こんなにすぐ返してくれるだなんて、律儀な人だなと思う。


「あ、ううん。どういたしまして」


 今までほとんど会話したことがなかったから、昨日の今日なのにお互いなんだか照れくさい感じになる。


 そしてそのまま数秒間沈黙が流れて……。これ以上何を話そう、なんて、私がそんなことを頭で考えていたら、有村くんが口を開いた。


「あー、それと、これ……」


 そう言って、なぜかガサゴソと、自分のブレザーのポケットをあさる彼。一体なんだろうと思ったら、次の瞬間。


「やるよ」


「えっ?」


 有村くんが、可愛い包み紙を手に持って、私に差し出した。


 ポカンとして、一瞬固まる私。


「えっと、あの……」


「いいから。水沢にやる」


 半ば強引にその包みを私に握らせる有村くん。


そして、そのままパッと手を離すと、目を伏せたまま。


「だから、その……昨日のお礼だよ」


「えぇっ!」