クールな君と甘いキャンディ(野いちごジュニア文庫版)

 有村くんが、カバンを肩に持ち直し、傘をそっと広げて差す。


 彼の体に対して、女物のその傘は小さいようにも見えたけれど、これで少しでも彼が冷たい思いをしないで済むのなら、ひとまず安心だ。


「あ、返すのはいつでも大丈夫だからっ」


 私がそう付け加えると、再びこちらに目をやる有村くん。


 そして、目が合ったと思えば、彼は急に少し顔を赤くしながら、何やら言いづらそうにボソッと小声で。


「あぁ。あの……ありがとな。水沢」


 思いがけない一言に、ドキッと心臓が跳ねた。


 え、ウソ。今、水沢って……。


 有村くん、私の名前知ってたんだ。


 同じクラスだけど、地味で目立たないうえに一度も話したことがない私の名前を覚えていてくれたなんて。思わずちょっとだけ感激してしまった。


 それに、怖いだなんて思ってたけどこうして話してみると、彼は案外普通の人だ。


 みんなは不良だなんて言うけれど、実はそんなことないんじゃないかって、彼に対する警戒心みたいなものが、少し和らいだ瞬間だった。