クールな君と甘いキャンディ(野いちごジュニア文庫版)

 その目つきはやっぱり少し睨んでいるようにも見えて怖かったけれど、そんなことを気にしている場合じゃない。


 傘の中棒を首にかけたまま、カバンに手を突っ込み、予備の折り畳み傘を取り出す。そして、それを持って彼の元へと駆け寄った。


「あ、あの……よかったらこれ、使って。女物だけど」


 正直、めちゃくちゃ緊張した。余計なお世話かもしれないと思ったし、受け取ってもらえなかったらどうしようかと思った。


 それでも、なんとなくそのまま濡れて帰ろうとする彼を、放っておけなくて。


 私が震える手で折り畳み傘を差し出したら、有村くんはギョッとした顔をしていた。私の行動に、相当驚いたんだと思う。


 だけど、迷惑そうなそぶりを見せる様子はなく、戸惑ったように目をぱちくりさせると。


「え……。いいのかよ?」


 意外な言葉が返ってきた。


「あ、うん」


「マジで使っていいの?」


「うん、もちろん! 私、普通の傘あるから、どうぞ!」


 私が再び念を押すと、少し間をおいてから、そっと手を差し出す彼。


「……わりぃ。それじゃ、借りるわ」


 そして、無表情のまま、その折り畳み傘を受け取ってくれた。