クールな君と甘いキャンディ(野いちごジュニア文庫版)

 校門に向かってスタスタと歩いていく。雨は心なしか、だんだんと強まってきているように見える。


 どしゃ降りになったら嫌だなぁ、なんて思いながら歩いていたら、ふと後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえた。


 そして、その足音はすぐ横を駆け抜けていく。


 ……えっ?


 誰かと思って見てみたら、なんとその人物は、先ほど昇降口にいたはずの有村くんで。


しかも彼は傘も差さずに、カバンを傘代わりに頭の上に乗せて、そのまま濡れて帰ろうとしているところだった。


 その姿を見て、ハッとする私。


 そっか。彼は傘を忘れたんだ。だからさっき……。


 でも、あのまま家まで濡れて帰るつもりなのかな。そんなの絶対風邪ひいちゃうよね。そう思った私は、無意識に彼の名前を呼んでいた。


「あ、有村くんっ!」


 私が声をかけると、立ち止まり、驚いた様子で振り返る彼。その瞬間、初めて彼と目が合った。


 あぁ、声をかけちゃった。どうしよう。


「あ、あの……っ、傘、持ってないの?」


 ドキドキしながら尋ねたら、彼は低い声で頷く。


「え、うん」