クールな君と甘いキャンディ(野いちごジュニア文庫版)

「はー、ドキッとした。有村くん、日直だったんだ」


 明日香ちゃんに言われて黒板を確認すると、確かに今日の日直のところに彼の名前があった。


 なるほど。だから今、彼は黒板を消しに来たんだ。


 黒板消しを片手に、丁寧に板書の文字を消す有村くんのことを横目で見ながら、明日香ちゃんが小声で呟く。


「なんかさぁ、有村くんってカッコいいけど、ちょっと怖いイメージがあるんだよね。近寄りがたいっていうか……。だから、喋るのいまだに緊張する」


「えっ。そうかな?」


「うん。だってなんか目つき悪いし、不愛想というか、クールじゃん? 一匹狼って感じで、あんまりみんなとも絡まないし」


「うーん……」


「それにほら、不良だって噂もあったじゃん。入学式の時に、ケンカしたとかなんとかって」


 そう言われて思い出す。確かに、一時期そんな噂が囁かれていたこともあったっけ。


「あ、あったね。でも私、有村くんは、優しい人だと思うけどな……」


 私が思わずそう答えたら、明日香ちゃんが驚いたように目を丸くした。


「えっ! そう?」


「うん」


 だけど、そう答えたのには、理由がある。


 なぜなら私は、有村くんが、本当は優しい人だって知っているから。


 そう。あの時から、私の中で彼のイメージは、完全に変わったんだ――。