クールな君と甘いキャンディ(野いちごジュニア文庫版)

 そう言われて、なんだかまた彼のイメージが少し変わる。


 有村くん、すごくいい人だなとは思っていたけれど、まさかこんなふうに普段から弟の面倒まで見ていたなんて。ますます尊敬しちゃうなぁ……。


「そうだったんだ。偉いね。いいお兄ちゃんだね」


 私がそう言うと、有村くんは困ったような顔で笑った。


「うーん、どうだろ。まぁ、大変だけどな。あいつ結構ワガママだし」


「そうなの?」


「入学式の時も、祐飛のせいで遅刻してさ。あいつが朝着替えるの嫌がって駄々こねて暴れるから、なだめようとしたら顔にパンチ食らって目にアザできたんだよ」


「えっ!」


 それを聞いてハッとする。じゃあ、あの時のあの殴られたようなアザは……。


 ケンカをしたとかそんなのじゃなかったんだ。


「そうだったんだね。だからあの時……」


「うん。それで目が腫れて、冷やしたりバタバタしてたら家出るの遅れてさ。遅刻したうえにみんなから変な目で見られるし、最悪だった」


 苦笑いしながら語る彼を目の前にして、なんだか急に申し訳ない気持ちになる。


 やっぱり有村くんは、不良でもなんでもなかったんだ。


 それなのに、みんな勝手に誤解して、変な噂を流したりして。私も最初の頃はそれを信じてしまっていた。


 きっと、有村くんはそれで嫌な思いをたくさんしたんだろうなぁ。