クールな君と甘いキャンディ(野いちごジュニア文庫版)

 廊下の隅っこ、私が一人うろたえていると、有村くんがそこでパッと手を離す。


そして、袋から焼きそばパンとサンドイッチを取り出すと、私にひょいと差し出してくれた。


「はいこれ、お前のパン」


「わぁ、ありがとう! 有村くんっ」


 どうしよう。まさか、有村くんが助けてくれるなんて。


 なんだか今、一瞬彼がヒーローみたいに見えてしまった。


「あの、なんかごめんね。お金はちゃんと返すからっ」


 パンを受け取り、私が申し訳なさそうに謝ると、有村くんはすました顔で言った。


「いいよべつに。このくらい」


「いやいや、でもっ、おごってもらうわけには……」


「気にすんなって。もういくらだったか忘れたし、俺」


 そんなことを言われても、さすがにそれは申し訳ないと思ってしまう。


「っていうか、水沢って結構ドジなんだな」


 有村くんが少し呆れたように言う。


「財布持たずに購買に来る奴なんて、初めて見た」


「うぅっ、だよね……。自分でもびっくりした」


 先ほどの失態を思い出して下を向きながら答えたら、有村くんにクスッと笑われた。


「ふっ。さっき、超焦ってたもんな」


「えっ、み、見てたの!?」


「うん、見てた。一部始終」


 そう言われて、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になる。


 あの慌てっぷりを見られていたなんて。