やがて春が来るまでの、僕らの話。






<柏木side>



学校来てとか言ったはいいけど、ドア開いてんのかなって。

日曜だし、部活が盛んな学校じゃないから人なんているはずもない。

そんなことを考えながら、まだ青い空の下、校舎の前で立ち止まった。



………懐かしい。

卒業してから絶対に立ち入ろうとはしなかった、この場所。

俺ですらこんな気持ちになんだから、あいつはどういう思いになんのかな、って。

想像するように思考を巡らせて、玄関のドアに手を伸ばした。



「…無用心にも程があんだろ。」


校舎の鍵が、開いていた。

まぁ田舎だからそんな用心棒ではないんだろうけど、それでも鍵ぐらい普通は閉めとくはずだから。


だからもしかしたら、陽菜が開けてくれたのかなって。

最近はなにかあると、全部陽菜が導いてくれてるみたいな気がしてしまう。



「…うわ、すげぇ懐かしい」


校舎の中を見渡すだけで、走馬灯みたいに蘇ってくる。


あの頃、陽菜もハナエも俺も志月くんも律くんも、


みんながこの場所にいた、あの頃……




───“私、谷ハナエですっ、よ、よろしくお願いします!”

───“律くんダメじゃん。転校生に頼み事しちゃ”

───“好きでもないのに適当に付き合うような男じゃないから、あの人”

───“お前さ、俺とハナエが付き合って、ほんとによかったと思ってる?”

───“彼氏とイチャイチャしてんの?”

───“なにこの下手くそな絵”




「……いたんだよなぁ、俺たちみんな、この場所に」




───“は?スリッパ?なにそれ、寝ぼけて履き間違えた?”

───“いや、俺が教室行ったらさ、ハナエちゃん座り込んで一人で泣いてて”

───“っ……ムカデ女ぁぁ!!そのムカデいつか剥ぎ取ってやるからなぁぁぁ!!!”

───“お前らがなに言おうとコイツは転校しねぇ。嫌ならテメェらがどっか行け”

───“柏木くん、さっき陽菜のこと無視した?”

───“ハナエ、むっちたちとお弁当食べたいんだって”





あぁなんか俺、


また泣きそうだ……