やがて春が来るまでの、僕らの話。


<ハナエside>



「くっそ会いてぇーぜーーー!!陽菜ーーーっ!!」



柏木くんが陽菜へ笑ったあと、空に向かって叫んだのは、若瀬くん。

静かで真っ白なこの場所に、若瀬くんの声が大きく響いた。


その声に続くようにして……


「俺もくっそ会いてぇーぜぇーー!!初めましてだぜぇーー!!」

「陽菜ぁ~~、ヒデトのことならぁ~、私に任せて~~!!」


南波くんとみっちゃんも、空に向かって大きく叫んだ。

そのあとすぐ、今度はむっちが息を吸い込んで……



「陽菜ーーーー!!」



誰よりも空へ響く声量で、きっと目一杯に声を高く張り上げた。



「私本当はっ、陽菜とちゃんと友達になりたかったー!どう接していいのかわからなくて、なにもできなくて、……本当はあの日、ハナエをお弁当に誘ったのは、…ハナエを誘えば、陽菜も来てくれるかなって思ったからなんだよー!!」

「、…」

「幼稚園の頃、よく一緒にお弁当食べたよね!私、ちゃんと覚えてるよ!だからまた一緒に食べたいなって、……思って、たのに」



むっちの目から、涙がぽろぽろ溢れ出す。



「…ちゃんと言えなくて、…どんな風に声を掛けていいのかわからなくて、……ごめんね、…ッ、…ごめんね、…陽菜」

「、」




八年経って、やっとみんなが陽菜の死と向き合えているから。

だから私もなにか言わなきゃって思うのに。


なのに言葉が、出てこない……



「、…」



私にはまだ、なにも言えない。


なにも考えられなくて、なにも浮かばなくて、


陽菜を想うことしか、できなくて……



私にはまだ、これしか言えないよ。




「、……また、来るから。……絶対にまた、……会いに、来るから…」



何度も、何度でも会いに来るから。


だからそのときでもいいかな?


そのとき陽菜にいっぱい話しかけるから、今はまだ、何も言わなくてもいいかな…?





「、……ッ、、陽菜………」



ねぇ陽菜。



「…、…陽菜…ッ…、、」



ねぇ、



「……、死んじゃ、……嫌だよ、…ッ、」




どうして死んじゃったの、




ねぇ……




「、、ウッ、ヒッ……ッ、…陽菜ぁぁ…、…!」




溢れ出す涙に、空の青さも雪の白さもぼやけてしまう。


だけどさっきとは全然違う。息苦しさはひとつも感じない。



だって、



だって……



今は一人で泣いているわけじゃないから……




「…、…なんでだよ…、」



唇を噛むみたいに言った若瀬くんの声が、震えてて……



「なんで死んだんだよ!…ッ、ふざけんじゃねぇよ、!!」



叫ぶ勢いに揺れた涙が、音もなく雪の中に消えていく。


上を向いた律くんの目から、隠し切れない大粒の涙が頬を伝って、


そっぽを向いて蹴飛ばした雪に混じって、柏木くんの涙がいくつも落ちた……








私たちは、陽菜を想って初めてこんなに泣いた。



いつだって悲しかったのに。


いつだって苦しかったのに。


私たちは、いつだって泣きたかったのに。




あの日、陽菜の葬儀で泣くことすらできなかった私たち。



八年経ってやっと、……やっと。



陽菜の前で、



陽菜を想って、




私たちはやっと、みんなで泣いた……