やがて春が来るまでの、僕らの話。






<ハナエside>



「お、いらっしゃい」


個展の会場で、南波くんが私たちを出迎えてくれた。


「まだ開いてないのに、ほんとにいいの?」

「おめぇらVIPだから、先行公開ってやつ。誰もいないからゆっくり見てって」

「ありがとう、楽しみ!」



建物内の「入り口」と書かれた通路を通り、展示物が並ぶ部屋に入って行く。

踏み入れた足が立ち止まったのは、壁一面に掛けられた絵の世界に圧倒されたから。


「うわ、すっげぇ…」


隣で呟いた柏木くんが、音のない部屋の中で息を呑む。

それくらい、この空間に広がる世界がキレイだ。


「これ、全部南波くんが描いたんだよね…?」

「そりゃ、南波栄太の個展だから」

「すごい、ほんとにすごい…」


どうしたらこんなに人の心を動かす絵が描けるのか……

彼の手から生み出されたたくさんの作品を見て、やっぱり南波くんのことが羨ましいと思った。

秀でたものがなにもない私とは、本当に全然違ってみえるから。



「こっち、目玉だって」


順路と書かれた道順の通りに辿り、更に奥へ続く通路を抜ける。

次の部屋には、たった一枚、とても大きな絵があるらしい。



この個展の、目玉。


それはあの日、南波くんがアトリエで描いていた絵だ。


雪のように真っ白な色を描いていたあの作品が、どんな風に完成したのか。


ドキドキしながら視線を上げた。




「、…」





なに、これ……