やがて春が来るまでの、僕らの話。







数週間後、杉内とハナエの仕事がほぼ同じタイミングで決まった、十月。

休日の今日、俺たちは朝から出かける用意をしていた。

正確には、着替えてるハナエを待ってるところだけど。


「準備できたー?」

「できてない、待って!」

「もー、早くしてよー」

「待って、あと髪の毛だけだから!」

「髪の毛なんて坊主でもチョンマゲでもなんでもいいってー」


俺の声に機嫌を損ねたのか、それに対する返事はなかった。

だから俺も適当にスマホをいじりながら、ひたすら待つこと十分。



「お待たせ!」

「おせぇ」

「ごめんって」


あらら。随分気合の入った髪型だこと。

普段俺と出かけるときは、そんな髪型しないくせに。


「なんでそんな張り切ってんの」

「だって南波くんの初個展だもん」

「ふーん」

「失礼な!悪かったね可愛くなくて」

「いや、なんも言ってねぇけど」

「これでもみっちゃんに教えてもらった、プロ直伝の髪型なんだから」


なんも言ってねぇのに、勝手にけなされてると思ってるのがおかしくて。


いや、おかしいんじゃねぇな。

これはあれだ。



「可愛いんすけど」



なんて、素直になってみたらさ。



「………」



黙り込んだハナエが、眉を寄せて怪訝な顔で俺を見た。



「…し、死ぬの?」

「は?」

「最後に取りあえず言っておこう的な、」

「なんで最後に可愛いって言わなきゃなんねんだよ。最後ならもっと違うこと言うわ」