パスタBARから遠ざかり、どこへ行くでもなくただ歩く。
矢野さんへの苛立ちは次第に形を変えて、今になってやっと悲しい気持ちが顔を出し始めた。
こんなこと、昔から慣れているはずなのに。
心はもう、とっくに麻痺寸前のはずなのに。
それなのに、誰かからの嫌悪はどうしたってやっぱり痛い。
憂鬱なのか不安なのか、とにかく心の中が黒いもので埋め尽くされそうで……
無意識に動いた手が、カバンからスマホを取り出した。
操作したディスプレイに表示された番号に、発信をタップしようとしたとき。
タイミングが重なって、スマホが着信を知らせた。
「あ……」
柏木くんからの電話に、ハッとしてすぐに通話に切り替える。
「もしもし」
『あ、ハナエ今どこにいる?仕事早く終わったんだけど、もう飯行ける?』


