やがて春が来るまでの、僕らの話。




「……………は?」



放心状態の矢野さんも、通行人の視線も、今は何も気にならない。

今はもう、怒りで頭がいっぱいだ。


「…残念でしょうが、どんなに会いたくても、矢野さんはもう二度と杉内くんには会えないと思います。でも、私は違う。これからも、一生彼の傍にいる友達なので」

「……」

「あなたのことは恨んでも、彼を恨むことはありません」

「、…」



言い残し、私は自らその場を立ち去った。






自分のことを悪く言われても、手が出ることは今までなかった。


だけど矢野さんのことは、どうしたって許せない。


だって杉内くんは……



───“それでもきっと、いつか後悔するよ”

───“そんなん納得できない、辞めさせるならまずカバンに売り上げ入れた犯人だろ!?”



出会ったときも、カバンから売り上げが見つかったときも、


どんなときだって、杉内くんは間違いを正そうとする真っ直ぐな人で。


そんな彼に、私は何度も救われてきた。


だからこそ、杉内くんから仕事を奪ったあの人を、


恨みという形で全てをなすりつけようとしたあの人を、


私は絶対に、許すことができない。



「……」



いつだったか、陽菜が私のために掴み合いのケンカをしてくれたことを思いだす。


あのとき陽菜も、こんな風にジンと痛む手を我慢してくれたんだろうか。


こんな風に、心の底から怒りを感じてくれたんだろうか。



「っ……」



陽菜の気持ちに、今初めて寄り添えた気がした……