「あ、」
向こうから、矢野さんが歩いてくるのが見えた。
お店に入ってしまう前に、急いで駆け寄り声を掛ける。
「矢野さんっ」
こっちを見た矢野さんの目が、私に気づくと同時に驚くように丸くなった。
「お久しぶりです」
「え、なに、どうしたの?」
「杉内くんに、矢野さんが心配してくれていることを聞いて。すみません、ちゃんとご挨拶も出来ずに…」
矢野さんは、今日もとっても素敵だ。
スラっとした足はスキニーデニムがよく似合うし、シャツにカーディガンというシンプルな格好がセンスの良さを際立たせている。
歳はそんなに変わらないはずなのに、私との違いにため息が出そうなくらいだ。
「杉内くんは一緒じゃないの?」
「はい、今日は私一人です」
「なんだ、使えない奴」
「え?」
今、使えない奴って言った?


