「ちょ、泡!」
「あーごめん、落としたせいだ」
零れ落ちてくる泡を、急いで口に含んだ。
あ、乾杯してないのに飲んじゃったって、南波くんをチラ見するけど。
「あー、うっめぇ」
乾杯なんてする気もなかったのか、南波くんは既にすごい勢いで飲んでいる。
そんな姿に笑いつつビールを置いてスルメを咥えたら、南波くんが部屋を見渡しながら言った。
「ハナエちゃん、荷物取りに来たの?」
「………」
思わずスルメを噛むのが止まった。
いや、てかさ、その話…する?
「荷物、あんまりなかったから…」
「そっか。でも夢のような毎日だな、彼女と同棲って」
「………」
南波くん、残念ながらその夢はもう覚めてしまったよ。
だって今この部屋に残るのは、ハナエちゃんと過ごした思い出と、俺の中にある女々しい未練だけだから。
なんて……そんなことを考えてたら、案の定悲しくなってきた。
「あーあ、俺ってなんの為にいたんだろ…」
「ん?」
「俺がいる意味って、なんかあったのかな」
「………」
俺はただ、想い合っている二人の邪魔をしてただけなんじゃないかって。
今でもこんなに好きなのに、そう想うことすら邪魔なんじゃないかって。
そう考えたら一気に憂鬱な気分になるのに、あれから俺は、そんなことばかりを考えている……