やがて春が来るまでの、僕らの話。




「、…」


頬に何かが触れる感触がして、目が覚めた……


「あ、起きた?」

「、」


知らないうちにソファーで眠っていた私の目の前に、律くんがいる。

寝ながら泣いていたのか、律くんの人差し指が目の下の涙を拭ってくれていた……


「寝るならベッド使ってよかったのに」


もう帰って来ないんじゃないかって思うくらい長かった時間が、やっと終わったんだ。

目の前にいる律くんに安心して、気持ちが楽になっていく……


「行ける?カッシーんとこ」

「うん、行く…」

「じゃあ着替えてくるから、ちょっと待ってて」


スーツを脱ぎに寝室に向かった律くんを目で追いながら、体を起こす。

時計を見たら、時刻は17時半だった。

仕事、急いで終わらせてきたのかな……


フラフラと立ち上がって、律くんがいる寝室を覗きこんだ。


「なに、覗き?」


デニムと黒いポロシャツに着替えた律くんが、スーツをハンガーにかけながら笑っている。

そんな普通すぎる光景に、すごくホッとする。

朝までの出来事が全部夢だったみたいな、日常の光景に安心して……


「はは、そんな目で見なくても大丈夫だから」

「…どんな目?」

「いなくならないで、みたいな目?」


優しく笑う律くんが、スーツをハンガーにかけたあと、

遠慮がちに覗く私のほうに、近づいてくる。


目の前まで来た律くんは、やっぱり優しく笑ってくれた……


「いなくならないよ」

「……」

「俺はどこにも行かない」

「、…」


伸びてきた腕に、体がぎゅっと包まれる。

律くんの胸に顔を埋めたら、甘い香りがしてドキドキした……