やがて春が来るまでの、僕らの話。




「…律くんの家で、待っててもいい?」

「えっ」

「ダメ……かな」


ハナエちゃんの目は、まだカッシーの死に怯えているみたいに揺れている。

そんな姿に、ダメなんて言えるわけがない。


「いいよ、家で待ってて」


その声を確認したあと、ハナエちゃんはお礼を告げて助手席に乗り込んだ。









「1人で平気?」

「うん、平気」


自分の家にハナエちゃんがいることは、不自然でもなんでもない。

ついこの間までの日常が、戻ってきただけだ。


「じゃあ俺仕事行くけど」

「うん、頑張ってね」


玄関先まで見送ってくれたハナエちゃんを残して、ドアを開けた。


のに。


後ろからスーツの裾をぎゅっと掴まれて、踏み出した足は止められた。


「どした?」

「……」

「ハナエちゃん?」

「、…」


振り向いた俺の目には、俯いて裾を掴む彼女の姿が映っている。


「…早く、」

「……」

「…帰ってきてね」

「…、」


今にも消えそうなその声に、考えるより先に体が動いた。

ほとんど衝動的に、ハナエちゃんを抱きしめていた……



カッシーを想う悲しみや恐怖に怯えて、こんな風に頼られる。


それでもいい。


だって、一緒にいようって言ったのは俺なんだから。


この状態で、カッシーのところにやるわけにはいかないから。


共倒れになるくらい弱い2人を、俺が守るって決めたから……