やがて春が来るまでの、僕らの話。




「あれ、カッシーは?」


杉内を見ていた背中越しに、久しぶりな声が聞こえた。


「あ、南波くん久しぶり……って、なんかフラフラだね」


後ろに立っていた南波くんは、なんか見るからにフラフラして疲れきってる。

手も服も絵の具で汚れていて、おまけに頬にも青い絵の具がついている。


「個展、追い込みでアトリエこもってて最近寝てねぇの」

「あー、そりゃ大変だ」

「さっきアトリエにカッシーが来て、ろくなもん食ってねんだろ食い行くぞって、無理矢理ここで待ち合わせにされたんだけど」

「へー」


カッシーと南波くん、いつの間にアトリエに遊びに行くような親密な仲になってんだって、俺はそっちのほうが驚いた。


「あー、でも残念、カッシー来ないわ」

「なんで?」

「ちょっと俺が頼みごとしたっつーか、なんつーか」

「頼みごと…?」

「なんとなく、今はカッシーのほうがいいんじゃないかって」

「……」

「振り向いたらカッシーがいたから、頼んだの」



ハナエちゃんの話を聞くことなら俺にだってできる。

言葉をかけてあげることなら俺にだってできる。


だけどもっと奥の闇の部分、その全てを打ち明けられる存在は、今はやっぱりカッシーや志月なんじゃないかって。

悔しいけど、そう思った。


どうしたら俺も、そんな存在になれんのかなって、


やっぱり今もまだ、その段階だ……






こんなことを思っていた俺は、やっぱり誰のこともちゃんと見ていなかったのかもしれない。



誰が1番深い闇の中にいるのか、


誰が1番苦しんでいるのか、



どうして気づけなかったんだろう……