やがて春が来るまでの、僕らの話。


【ハナエside】




「ハナエちゃん」


奥のテーブルを拭いていたら、背中越しに名前を呼ばれた。


「律くん、どしたの?」



振り向いたら律くんが立っていて、スーツのポケットに片手を突っ込んでいる律くんは、もう片方の手で首元を触りながら気まずそうに言う。



「今日って何時に終わる?」

「今日はあと1時間ぐらいで終わるけど」

「そっか」

「うん」

「……」

「?」



なにも言わなくなった律くんを、布巾を持ったまま見続けた。



「あのさ」

「うん」

「仕事終わったあと」

「うん?」



首元を触っていた手を離し、遠慮するように目だけを上げた律くんは、私を見た。




「……連れ出しても、いいっすか」