「あれ、なにしてんの大丈夫?」
しゃがみ込んでドキドキを抑えている頭上に、聞こえてきた声。
見上げた先の律くんと目が合って、私はぎこちなくも必死に笑った。
「グラス落としちゃって」
「え、大丈夫?」
「大丈夫、割れなかったから」
落ちている氷がもうないことを確認して、私もやっと立ち上がる。
律くんは冷蔵庫の中のお酒を探していて、その中を見て苦笑交じりに言う。
「これ酒足りないな。俺買ってくるわ」
その言葉に私は閃く。
買い出しに行けば、少しの間柏木くんから離れられて、この心臓も落ち着くはず。
「私も行く」
「いやいいよ、仕事の後で疲れてるでしょ?」
「大丈夫、私も行く、お願いっ」
柏木くんを避けているわけじゃないけど、少しこの場所から離れたい。
だって今のままじゃ、絶対に普通ではいられないから。
「そんな行きたいの?」
「うんっ、行きたいの」
「はは、変なの」
こうして私たちは近所のコンビニへ買出しに向かった。
深夜の夜道は当たり前に静かで、たまにすれ違うのはお酒の匂いのする若者ばかり。
春だから、歓迎会とかが多いのかな。


