やがて春が来るまでの、僕らの話。




「……はぁ」



小さなため息を吐きながら、タクシーに乗りこむ。

足元がなんとなく重くて、いっそ靴を脱いでしまいたいくらいだった。


「もうみんな相当酔ってそうだよね」

「そうだね」


当たり障りのない会話に、相槌を打つ。

靴、新しいの買わなきゃな。



「ねぇハナエちゃん」

「ん?」

「靴、どうしたの?」

「、…」


その言葉に驚いて、杉内くんの横顔を見た。


「それ、仕事用の靴でしょ?」

「……」


靴が違うこと、気づいてたんだ。



「……間違えて履いてきちゃった」



誤魔化しの言葉なんて、これくらいしか浮かばない。



「そっか」

「うん……」

「明日、一緒に買いに行く?」

「え?」

「新しい靴」

「……」



驚いてもう一度彼の顔を見たら、今度は目が合った。


優しく笑う横顔に、今更胸が痛くなる。

杉内くん、もしかしてさっきの下駄箱の中、見えてたのかな。



「……うん、ありがとう」



踏み込むわけではなく味方でいてくれる杉内くんの存在に、

足元が少しだけ軽くなった気がした……