陽菜の命日は、何をする訳でもない。

あの町に帰ることなんて出来ないし、帰りたいとも思わない。

だからお墓参りをしたことだって、1度もない。

だけどその日はやっぱり、陽菜のことを想っていたいから……


「ねぇハナエちゃん」

「ん?」

「聞かせてくれない?」

「え、なにを?」

「ハナエちゃんと律くんが過ごした、雪の降る町の話し。俺、聞きてぇの」

「……」


今まで誰にも話したことなんてなかった。

話すような友達もいなかったし、話したいと思ったこともなかったから。

当事者と昔話をするのは重い気持ちになりすぎるから、律くんと話しをするのは避けて来た。

だけど何も知らない南波くんになら、もしかしたら話せるかもしれない。

あの時の気持ちも、胸に溜まっている全部の想いも、彼になら話せるかもしれない。

この人なら、暗い顔も明るい顔もせず、きっとただ黙って聞いてくれる。



「…あの、ね」