「家、だいたい知ってるから、心配しないで」

「怖……」

「ご、ごめん! 大分前、君が帰り道、いつもの女子たちに付き纏われていたのが心配だったから、さ。後をつけてしまって、本当にごめん」



焦る姿が、何だか微笑ましい。



「冗談ですよ。この時代でも、見守ってくださってたんですよね。ありがとうございます」



私が頭を下げると、先輩は目を見開いていた。



「もう、気持ちは落ち着いた?」

「いいえ。でも、今はそういう気分ではなくなってしまいました」



教室に鞄を取りに行くと伝えると、先輩は頷いた。

そして、特に何を言うでもなく、ただついて来る。

私が先程「いいえ」などと、不安にさせるような余計なことを言ったせいだろうか。

そうして、私は何故か、学内で人気者の部類にいる、鳥居先輩の隣を歩いている。

私が毎日、通学に行き来している江ノ島電鉄と、海岸沿いの間の歩道を歩いている。

「鳥居先輩。ちなみに、おいくつなんですか。さっき、江戸時代よりも、もっと前と仰っていましたけど」

「いくつに見える?」

「わ、面倒臭い……」



外の誰かと、他愛もない会話をしたのは、いつ振りだろう。

誰かに見られてはいないだろうか。

心配になる。

そんな私を察した先輩が、こちらを一瞥すると、落ち着いた雰囲気で語りかけてくれた。



「君をこれ程までに、不安定にさせる根源は一体、何?」